暴力的な白の中、ホカホカ汁物

TCKによる元・留学ブログ。夢を手放して色んなことをリハビリがてらやりたいな

Ladder of Years (小説) 感想

邦訳は歳月の梯子

 

18歳とか19歳くらいのときに気になっていた本だった記憶がある。当時は家族から遠く離れて新生活を迎えるわけだったので、どうやって生活を豊かにするかネットサーフィンしていたんだけども、その時見つけた2chの掃除板のスレで紹介されていた。多分。

 

何もかもを置き去りにして最低限の物とともに知らない土地で生活するというのに憧れた。

主人公が持つ最低限の持ち物の一つとして紹介されていた、マグカップに浸してお湯を沸かす器具が欲しくて当時探していたけれど、カナダのホームセンターでみつけたものはよく見たらホイッパーだった。結局お湯を沸かす道具がなんという名前なのか、どこで手に入るのか今でも分からない。

 

2016年とか、そのあたりのニート時代に、この本の電子書籍が図書館で借りられることに気がついた。借りたけども液晶画面で英語(文字が小さい!)の本を読むのはしんどかった。結局新生活に突入するかしないかの場面までしか読んでいなかった。それでもやはりとても印象深い本で、私の頭の中の初夏のイメージを支える材料の一つになっていた。

 

そんな Ladder of Years を今年また読むことにした。本当はバカンス中にでも読みたかったんだけども、年末年始の休みで家にいるときに急に読みたくなったから。まぁ、実際読み始めたのは出社が始まった後だったので、通勤とかいうストレスフルな環境を味わいながらだったけども。しかし今回使った読書デバイスはペーパーライクディスプレイの BOOX なので、少なくとも目は痛くならずにすんだ。

 

たまに音読すると、とても口に馴染みがいい文章だった。

私は英語がそこまでできるわけではないのでところどころ分からない単語や構文もあったけども、主人公の感情、あるいは感情をうまく理解していない様子にはとてもよくrelateできた。日常のシーンのどこの描写を持ってくるか、そういった拾い方の巧みさから見える主人公の心の機微が面白かった。

多分この共感は今の自分だからわかるんだと思う。初めてこの本の存在を知った大学入学前後の自分でも、最序盤を読んで良いなと思った2016年の自分でも理解できなかったと思う。

 

適当な例えだけども、ぼーっと人の話を聞き流す時にじっと話者の持ち物のビーズを眺めてしまうような、そういう一瞬だけど永遠に感じる自分だけの時間が文章になって紙に張り付いたような本だった。でも人と人の交わりの場面になるとやはり物語が動いてしまって、それが梯子を昇らされるようでワクワクした。

 

ここまで感想を書いてても、一番肝心なところは書けていない。それくらいじっくり染み渡って「わかる」話だった。

でも多分、私のライフステージが今後変わったら、もうわからなくなるかもしれない(あるいはもっとちゃんとわかるかもしれない)。だから今読めて良かった。私はよく「私が(物を)好きになるんじゃなくて対象に選んでもらえた」「このような人生になるようにデザインされた」といった受け身な表現をするから、本の中盤に出てきたタイトル回収(歳月の梯子)も、そんなかんじで受け止めた。

 

そういえば、主人公は高卒でそのまま結婚・出産してずっと「ちゃんと分かってない」扱いで軽んじられて生きてきた感じだけど、物語終了の余韻の中めくって出てきた著者プロフィールがつよつよで笑っちゃった。